タイで賄賂が通用するという幻想

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「タイで賄賂は当たり前」「最終的には賄賂でなんとかなるから」などと言われているのを耳にすることがあります。果たして本当にタイでは賄賂が通用するのでしょうか。タイでの賄賂に関して、在タイ20年以上になる筆者なりの見解を解説します。

違反や軽犯罪には通用する、かも?

タイで警察官が交通の取り締まり検問をやっていて、そこで停車させられると、違反切符を切られる代わりに警官へ100バーツ程度の現金を渡している光景をよく見ます。確かにこれは賄賂と言えると思います。違反切符を切られると後ほど警察署へ出向いて400~800バーツ程度の罰金を支払わなければなりません。後日時間を取ってわざわざ警察署へ行くのも面倒ですし、違反の罰金は相場が400バーツ以上と高いため、その場で100バーツで収まるならと皆その場で100バーツの賄賂を渡して通してもらっているように思えます。

実際にこの光景を目の当たりにすると日本人としては衝撃を受けます。数百台~数千台にも登るだろうという台数の車がどんどん停められて行き、その殆どのドライバーが100バーツを渡して通過していきます。このことがタイでは賄賂が通じると思ってしまう原因ではないかと考えています。

飲酒検問で払っているのは賄賂ではない

筆者がタイで仕事を始めた20年以上前のタイでは、飲酒運転は違法ではなく、運転する際の飲酒に許容量がありました。飲酒検問はありましたが、測定する機械に息を吹きかけてアルコールが基準値を下回っていれば問題無しというものでした。基準値の目安はビール瓶2本分と表記されていたのを覚えています。ところがいつからか飲酒運転が禁止され、現在ではアルコール検知の基準値がかなり厳しくなりました。現在の基準値は日本とほぼ同じ水準となっています。

飲酒運転の罰則も強化され、飲酒運転で摘発されれば拘束された上に20,000バーツ以下の罰金が科されます。飲酒検問で捕まった時にドライバーたちは20,000バーツを支払って見逃してもらっているような光景を目にしますが、実はこれは罰金でも賄賂でもなく保釈金です。本来は飲酒運転で捕まってしまうと拘束されて警察署で1泊過ごしてから翌日に簡易裁判を受けることになりますが、20,000バーツの保釈金を支払うことによってその場は保釈され(そのまま飲酒運転して帰れるのが不思議ですが)、翌日改めて警察に行って簡易裁判を受けることが通常の手順です。尚、簡易裁判で罰金の額が決まりますが、初犯ですと4,000~5,000バーツ程度で収まって保釈金は返済されるそうですが、簡易裁判に出廷しないと保釈金は没収されます。

空港の税関への支払いは賄賂ではない

タイへ到着した際、荷物が多いと税関で検査を受けて税関職員からお金を請求されることがあります。特に段ボール箱は厳しくチェックされるようです。検査を受けた後、税関職員が「見逃す代わりにお金を請求する」ように見える理由は、交渉で値切れることがあるからでは無いかと思います。

タイの空港の税関では「見なし」という権限が税関職員に与えられていて、持ち込もうとしているものがタイの市場ではどれくらいの価格で売られているものかを「見なし」て、その「見なし価格」に対しての関税を支払わせるということになっています。

この「見なし価格」は正確な価格では無いためもちろん高い安いなどの意見を言うことが出来ます。職員はそれらの情報によって見なし価格を低くして関税が安くなることもありますので、持ち込もうとした人からするとこれを「値切れた」と思い、値切れるようなものが正規の関税のはずがないから賄賂だ、と思ってしまうようです。

職員にコミッションがある

昔、東京税関からタイに出向されていた方に聞きましたが、タイの税関職員には歩合制度があるそうです。どれだけ摘発出来たか、その摘発額の40~60%をコミッションとしてもらえるそうです。タイの公務員の基本給は安いのでこのような制度になっているのではないかと思います。

(現在はわかりませんが以前はタイに東京税関の出張所がありました)

賄賂が通用しない事例

タイで逮捕された日本人が警官に賄賂を申し出たが、賄賂を持ってきた友人諸共逮捕されるという事件がありました。この事件からわかることは、警察には賄賂が通用しない、もしくは、賄賂が通用しない例がある、ということです。

覚醒剤2・3キロ所持、警官に賄賂申し出か バンコクで日本人4人逮捕

税務署に賄賂が通用しなかった

同業のコンサルティング会社の方から聞いた話ですが、あるお客様のタイ現地法人で本来税金がかかる業務に対して適切な税務処理をしておらず、約10年経ってから課徴金で信じられないような莫大な額を税務署から請求されたことがあったそうです。そのお客様は管轄だった税務署の所長に対して賄賂を申し出たそうですが、断られた上に刑事事件として告訴しますよとまで言われたそうです。

ただ、この話の結末としては、税務署と何度も話し合って一部減額を認めてもらうことが出来、さらに分割で支払っていくということで決着が付いたそうです。減額が認められたと言っても賄賂などではなく正規の課徴金です。賄賂などと軽々しく口にするよりも根気強く相談する方が良いという例ですね。

賄賂が通用しない理由

いったいなぜ賄賂が通用しないのでしょうか?

本来通用しないのが当たり前ですが、日本人からするとタイは何かと制度も緩く法律も穴だらけの国だと勘違いしてしまうため、いざというときに「賄賂で」などと変なことを考えてしまうことがあります。

もし、上述した税関職員にあるようなコミッション制度が、税関職員だけでなく警察官や税務署職員などの他の公務員にもあるとすると賄賂が通じないのもよくわかります。(税務署職員にはあるようです)

税関職員と同じように40~60%のコミッションが正規の業務でもらえるとすると、賄賂はそれより多くなければ成り立ちません。また、警察官も税務署職員も単独で業務をしているわけではなく複数人で動いていますので、その全員が納得できるだけの額でないといけません。正規の業務をきちんとこなせばコミッションを貰えるのに、わざわざ賄賂を受け取るという犯罪行為を犯してでも、その後クビになったり起訴されて家族一同露頭に迷うリスクを負いながらも、関わる全員が納得して受け取ることが出来る賄賂の額とはいったいいくらになるでしょうか?

まとめ

「賄賂が通用する」とまことしやかに言われているタイですが、この国で20年以上仕事をしている筆者はそのようには思いません。もしかしたら、我々が一生手にするようなことのない大金を賄賂として使えば通用するかもしれませんが、我々一般人には関係のないことではないかと思います。

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