収支シミュレーション と 事業計画の立て直し

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ある飲食店がピンチから立ち直った事例を挙げて 収支シミュレーション という手法とその重要性に関しての説明をします。

コロナ禍で苦しい飲食店

どの飲食店でも大変厳しい状況だと思いますが、弊社の顧客のある飲食店でもコロナ禍の影響をまともに受けてしまい非常に苦しい状態でした。店を開くことができない期間が続き、やっと開けるようになっても客足は戻ってこず、急遽始めたデリバリーサービスにほとんどの売り上げを頼るようになりました。幸いデリバリーサービスは予想以上に好調で、スタッフも割と忙しく働いていたのでオーナーはデリバリー事業を始めて良かったとほっと一息ついていました。

このような状態のまま数か月が過ぎ、毎日忙しくしているにも関わらず売り上げはコロナ禍以前の3割から4割程度しか達成できないままでした。デリバリーではどうしても客単価が低くなり、手間はかかって忙しくはなるがコロナ禍以前のような売り上げは見込めませんでした。

運転資金が増えた

もちろんオーナーは客単価が少なく売り上げが減少していることには気づいていましたが、手持ちの運転資金に余裕があったためまだまだ店を維持していける状態だと考えていました。実はこれは運転資金だけを気にしているときに陥りがちな落とし穴です。

弊社も日ごろから「運転資金が大事」「現金が命綱」ということを顧客にお伝えしていますが、「運転資金『だけ』 が大事」ではありません。運転資金ももちろん非常に大切ですが、事業を行う上で一番大切なのは事業利益の確保です。それはまさに経営です。そしてその経営方針と事業計画を立てるために今後の推移の予測をする収支シミュレーションを、色々な場合に分けたパターン別で行っていくことをお勧めします。いくら運転資金が潤沢でも事業利益が確保できなければいずれ潰れてしまいます。

運転資金が増えた理由

この飲食店では、閉店を余儀なくされた際にまずスタッフのリストラを敢行しました。さらにオーナー兼店長ご自身の給与も低く抑えて、毎月の人件費を極力少なくしました。しばらくお店を開くことが出来なかったので光熱費が下がり、再オープンしてからも仕入れが少なくなりましたので変動費も減りました。仕入れは約60日後支払いの買掛なので、再オープンして最初の1、2か月では売上が先に入った分運転資金が増えたのです。このことによりデリバリーだけでもお店は引き続きやっていけるとオーナーが勘違いしてしまいました。

運転資金が減ってきた

ところがデリバリーは好調だと思っていたものの運転資金が徐々に少なくなっていることに気づき、何かがおかしいと思ったオーナーが弊社へご相談にこられました。雇っていた会計事務所からも毎月のレポートは出てきていましたが、2か月~3ヶ月遅れで提出されポイントを掴めないレポートで説明もないということで、弊社へお問い合わせをされたのでした。

事業状態の把握と収支シミュレーション

弊社ではオーナーからいただいた売り上げや固定費と変動費の数字をもとに、まずは現状の事業状態が赤字だということと、毎月どれくらいの赤字が出ているかを確認しました。

現状の事業状態を把握した後に今後の資金繰り表を作成し、現状のままお店を維持していけば1年以内に運転資金が枯渇することがわりました。運転資金の減り方はなだらかな状態だったのですぐに潰れるということはありませんが、運転資金がなくなる前になんらかの手を施さないといずれ潰れてしまいます。

借り入れは新しい事業計画を立てた後に行うこと

少し話はずれますが、運転資金が少なくなってきた際にオーナーがまず考えるのが借り入れによる資金調達です。銀行や金融機関から融資を受ける、または、家族や友人から現金を借りる、という方法で急場をしのごうとされるオーナーが多いですが、事業そのものの見直しが無く景気が上向けば自分の事業も良くなるという場合、その借り入れはいわば自力で返せる当てのない借り入れと言えます。今回の飲食店の件でもコロナ禍が原因ということがはっきりとしていますが、コロナ禍が1年以内に収まって客足が戻らなければ自力では返せない借り入れとなってしまいます。弊社としてはこのような借り入れは絶対にやめた方が良いと念押ししています。借り入れはせめて新しい事業計画を立てた後に自力で返すことが出来る分を明確にしてから実施することをお勧めします。

この飲食店オーナー様も新しい借り入れを検討していましたが、既にコロナ禍以前に借り入れをしていてその返済をしている最中だったので、他から借り入れをしてしまうと「新しく借り入れをしたお金で昔の借り入れの返済をする」という貸す側としては絶対に受け入れられない状態になってしまうので、それはやめた方が良いと進言しました。

今のままだと近い将来どうなるか

オーナーと一緒に事業計画の見直しに着手しました。コロナ禍が収まってお店を完全な形で再オープンして以前と同じような状態に戻すためには、次のものにお金をかける必要があります。

  • 減らしたスタッフを再び増やすための採用費、人件費
  • 顧客を呼び込むための広告宣伝費、プロモーション費

これらの中には売り上げが立つ前にかかる費用もありますので、コロナ禍後にお店を盛り返すためにはこの費用分の資金も持っておかなければなりません。さらに、客足が戻るにしても一気に戻ってくるわわけではなく、徐々に戻ってくるカーブを描くとすると、完全に客足が戻るまでの期間の費用も必要となります。これらを全て考慮に入れて収支シミュレーションを行うと、このままお店を維持できるのは1年どころか半年ほどしかないことがわかりました。

事業計画の立て直しで黒字化

この収支シミュレーションの内容を理解して納得されたオーナーは、半年でコロナ禍が収まることはないと判断して事業の大幅転換を行うことを決断されました。どのように事業転換をするべきか、資金面から色々な収支シミュレーションを行い、オーナーと話し合って様々な事業アイデアや事業計画を立てました。注目したのはデリバリーの売り上げと最大の固定費である家賃です。

単純な話ですが、現状デリバリーで一定の売り上げは維持できているので、固定費をもっと減らしてデリバリーの売り上げだけで成り立つ事業計画を作りました。思い切って店舗をやめて最大の固定費である家賃を減らし、デリバリー事業に特化するという計画です。幸い家賃も安いところが出ているのでそこへ引っ越して内装も作る必要がありません。ホールのサービススタッフも必要なくなり固定費は極限まで縮小できます。現在の売り上げをもとに収支シミュレーションを作ると、すぐに黒字化することがわかりました。

大きな費用がかかってもよい根拠

もちろん、引っ越し費用や新しい物件の家賃のデポジット、さらに今の物件に支払っているデポジットが返ってこないなどの引っ越しにかかる大きな費用は発生してしまいますが、コロナ禍が終わるのが1年後と仮定してそれまでに支払うであろう費用 と 引っ越した場合の費用を収支シミュレーションで計算して比べたところ、引っ越した方がまだ良いという結果でした。現状なら運転資金からこれらを捻出する余力もありました。

このように事業の現状を把握して色々なパターンで収支シミュレーションを行って事業計画を作り直すことが出来れば、事業を維持して将来につなげる方法を見つけ出すことも可能となります。

実際の成果 と まとめ

尚、この飲食店ですが意外な方向に話が進みました。もちろん失敗ではなくとても良い方向です。

弊社と一緒に事業計画の変更を作成し、家賃の高い今の物件から引っ越す先の目途をつけて物件のオーナーに引っ越す旨を伝えたところ、今の物件のオーナーから家賃を下げるので引っ越しを待ってほしいと打診がありました。再度収支シミュレーションを行い、どれくらいの家賃まで下がれば引っ越さない方が良いかを確認してその家賃で交渉したところ、半年間だけという条件は付きましたが交渉がまとまって家賃を下げてもらうことができました。家賃が下がるのは半年だけですが、半年後の状況によって収支シミュレーションを行ってまた違う事業計画を立てれば良いのです。

最初から物件オーナーと値引きの話をすればよかったじゃないかと思われるかもしれませんが、いくらの家賃なら現状が続いても潰れないという数字が無いと、家賃が下がったところで潰れるのを先送りしているだけとなってしまいます。しっかりとした根拠に基づいて色々な収支シミュレーションを行って事業計画を練り直すことが重要です。

事業計画の立て直しや、収支シミュレーション、会計事務所がいざというときに役に立たない、などありましたら弊社へお任せください。

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