タイで事業を営む日本人経営者の方から、「海外取引だから当然VATはかからないと思っていたが、税務調査で罰金を課された」というご相談をいただくことが少なくありません。
その原因の多くは、「VAT 0%(ゼロ税率)」と「VAT免除」の取り扱いを混同していることにあります。どちらも最終的にVATの納付額は「0」ですが、書類上の処理・仕訳・申告手続は大きく異なり、誤った処理をすると罰金と追徴課税のリスクを事業者自身が負うことになります。
本記事では、タイのVAT 0%とVAT免除の違いを、経営者の視点で整理して解説します。
結論:VATが「0」でも書類上の処理はまったく別物
まず押さえていただきたいポイントは次の3点です。
- 海外とのビジネスでは、多くの場合VATが加算されない。
- ただし、商品や商流によって「VAT 0%(ゼロ税率)」に分類されるケースと、「VAT免除」に分類されるケースに分かれる。
- どちらもVATの負担額は0だが、書類上の処理・申告方法は異なる。誤って仕訳をすると、税務当局から罰金や追徴課税を受けるのは会計事務所ではなく事業者自身である。
『VATが0なのだから、どちらで処理しても同じ』という理解は、実務上非常に危険です。
VAT 0%(ゼロ税率)とは
概要
VAT 0%(ゼロ税率、Zero-rated VAT)とは、「VATの課税対象取引ではあるが、税率が0%として扱われる取引」をいいます。つまり、形式上はVAT課税取引として扱われる点がポイントです。
主な該当取引の例
- タイからの物品の輸出(Export)
- タイ国外で使用されるサービスの提供(国外役務提供)
- 国際運送サービス(航空機・船舶)
- BOI恩典やフリーゾーン・保税区関連の一定の取引 など
※実際の該当可否は、契約内容・インボイス・支払条件・証憑書類によって判断されます。必ず個別の取引ごとの確認が必要です。
書類・会計処理上のポイント
- タックスインボイス(Tax Invoice)の発行義務あり(税率0%と記載)
- 売上VATは0だが、仕入に係るVAT(Input VAT)は還付請求が可能
- 月次VAT申告書(Phor.Phor.30 / ภ.พ.30)にゼロ税率売上として計上
- 輸出の場合、通関書類(Export Entry)などエビデンスの保管が必須
経営者にとってのメリット
VAT 0%の最大のメリットは、仕入VAT(Input VAT)の還付を受けられる点です。海外に商品・サービスを提供する輸出型ビジネスでは、国内で支払ったVATを取り戻せるため、キャッシュフロー上非常に有利になります。
VAT免除(Exempt)とは
概要
VAT免除(Exempt from VAT)とは、そもそもVATの課税対象外として扱われる取引をいいます。VAT制度の枠外に置かれるイメージです。
主な該当取引の例
- 未加工の農産物、家畜、飼料などの販売
- 教育サービス、医療サービス
- 書籍・新聞等の販売
- 不動産の賃貸(住居目的)
- 年間売上高が一定額以下の小規模事業者 など
※上記は代表例であり、免除対象は歳入法(Revenue Code)および関連告示により定められています。
書類・会計処理上のポイント
- タックスインボイスは発行できない(通常の領収書・請求書で対応)
- 売上VATは存在せず、仕入VAT(Input VAT)の還付も不可
- VAT登録が不要な事業者も存在する(ただし、課税事業と免除事業を併せて営む場合は申告必要)
- 免除取引にかかった仕入VATは、コストとして費用計上する必要がある
経営者にとっての留意点
VAT免除は「VATを納めなくてよい」という点では事業者にとって有利に見えますが、仕入VATを還付できないため、実質的にコストが増えるケースもあります。特に、免除事業と課税事業を両方営んでいる場合、仕入VATの按分計算を誤ると、税務調査で指摘されるリスクが高まります。
【比較表】VAT 0%とVAT免除の違い
両者の違いを一覧で整理すると、次の通りです。
| 項目 | VAT 0%(ゼロ税率) | VAT免除(Exempt) |
|---|---|---|
| VAT制度上の位置付け | 課税取引(税率0%) | 課税対象外 |
| タックスインボイス発行 | 発行義務あり | 発行不可 |
| 売上VAT | 0(ゼロ税率で申告) | なし(申告対象外) |
| 仕入VATの還付 | 還付可能 | 還付不可(コスト化) |
| 月次VAT申告(Phor.Phor.30) | 必要(ゼロ税率売上として記載) | 免除売上として記載(課税事業兼営の場合) |
| 代表例 | 輸出、国外役務提供、国際運送 | 教育、医療、未加工農産物、住居用不動産賃貸 |
| 誤処理時のリスク | 還付受給漏れ、証憑不備による否認 | 無効なタックスインボイス発行・仕入VAT不当控除 |
なぜ「会計事務所任せ」が罰金・追徴の原因になるのか
実務上、VAT 0%と免除の区分は「取引の実態」「契約内容」「商流」を把握していなければ正しく判断できません。ところが、会計事務所は日々の仕訳処理を担うだけで、経営者のビジネスの中身まで深く理解しているとは限りません。
その結果、次のような問題が発生します。
- 本来「VAT免除」で処理すべき取引を「VAT 0%」として処理し、不当に仕入VATを還付請求してしまう
- 本来「VAT 0%」で処理すべき輸出取引を「免除」扱いにしてしまい、受けられるはずの還付を取り損ねる
- 証憑書類(輸出通関書類・契約書・送金記録など)の保管が不十分で、税務調査で0%適用を否認される
- タックスインボイスの不適切な発行(本来発行不可の免除取引に発行してしまう など)
そして重要なのは、税務当局から罰金・追徴課税を科されるのは会計事務所ではなく、事業者(経営者)本人であるという点です。「会計事務所に任せていたから」という説明は、タイ歳入局に対して免責事由にはなりません。
経営者が押さえておくべき3つの実務ポイント
1. 自社の主要取引が「0%」か「免除」かを一度棚卸しする
輸出・国外役務提供・BOI関連取引・不動産賃貸・教育医療関連など、自社の売上構成ごとにVATの扱いを明確に整理しておくことが重要です。
2. 証憑書類(エビデンス)の保管体制を整える
特にVAT 0%を適用する輸出・国外役務提供については、通関書類、契約書、インボイス、送金記録などの証憑が揃っていなければ、税務調査で適用を否認されるリスクがあります。
3. 会計事務所とは「ビジネスの中身」を共有する
会計事務所に丸投げするのではなく、商流・顧客・契約条件を共有し、VATの区分について経営者自身も把握しておくことが、罰金・追徴リスクを下げる最大の防御策です。
FAQ(よくあるご質問)
Q1. VAT 0%とVAT免除は、どちらが経営上有利ですか?
一概には言えませんが、仕入VATの還付を受けられるVAT 0%の方が、キャッシュフロー上は有利なケースが多いです。ただし、どちらに分類されるかは事業者が選択できるものではなく、取引の性質により法令で決まっています。
Q2. 海外の顧客にサービス提供していますが、自動的にVAT 0%になりますか?
いいえ。「サービスが国外で使用・消費されていること」など、一定の要件を満たしたうえで、証憑書類が揃っている必要があります。契約書・送金記録・業務実施場所の証明などが不足していると、ゼロ税率適用が否認されることがあります。
Q3. 会計事務所が「0%で処理した」と言っているので安心でよいでしょうか?
残念ながら、税務調査での最終的な責任を負うのは事業者本人です。会計事務所の処理が適切かどうか、経営者自身が一度チェックし、必要に応じて弁護士・専門家によるセカンドオピニオンを取ることをおすすめします。
Q4. 過去の処理にミスがあった場合、どうすればよいですか?
早期に自主的な修正申告(追加申告)を行うことで、罰金・延滞税を軽減できるケースがあります。税務調査で指摘される前に、専門家に相談のうえ是正することが重要です。
Q5. VAT免除事業とVAT課税事業を両方営んでいる場合、注意点はありますか?
はい。共通して発生する仕入VATについて、課税売上と免除売上の比率に応じて按分計算する必要があります。按分方法を誤ると、仕入VATの不当控除として指摘を受けるリスクがあります。
まとめ:VATの区分は「経営判断」であり、丸投げは危険
タイのVAT制度において、「VAT 0%」と「VAT免除」は似て非なるものです。どちらもVATの納付額は0ですが、書類処理・仕入VATの取扱い・申告方法が異なり、誤った処理は罰金・追徴課税に直結します。
そして、罰金を支払うのは会計事務所ではなく、経営者である事業者自身です。自社の商流を把握し、会計事務所と連携しながら、必要に応じて法律事務所によるチェックを受けることが、長期的に事業を守るための重要なリスク管理となります。
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※本記事はタイ法令および実務慣行に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律・税務アドバイスではありません。実際の取引の処理にあたっては、必ず専門家にご相談ください。また、法令・通達等は改正される可能性がありますので、最新の情報は所管当局または専門家にご確認ください。
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