タイにおける「約束」の概念が、日本人が持っている概念と少し違うのではないかと感じています。今回はそのことに関して説明します。
締結後もまとまらない契約内容
タイにてM&Aや金額の大きいサービス契約などのサポートを行っていると、契約締結後でも、つまり、契約書に署名した後でも、契約内容の変更を申し出られたり、条件を緩和して欲しいという話をされることがあります。契約直後ならまだわかるのですが、契約してしばらく時間がたっていてすでに契約の効力が発揮されている時期からでもこのような話をされることも少なくありません。
日本人的には変更は無理と考える
日本人的な感覚ですと、契約締結をした後に、もし自分たちの状況が変わって契約内容が自分たちに不利になってしまったとしても、契約する際にその状況を想定できなかった自分たちが悪いと諦めてしまうことが多いかと思います。
もしくは、契約内容を見直してもらいたいと強く思った場合でも、「ダメ元」で打診をしてみるという感覚ではないでしょうか。
タイ企業オーナーの考え方
しかし、タイの企業オーナーや経営者の方からは「ダメ元」という感じではなく、「状況が変わったんだから契約内容は変更して当然だ」というような話しぶりで変更を迫ってくる方もいらっしゃいます。
一度、タイ企業側として事業売却の契約をお手伝いしたことがありますが、契約締結から約半年後にタイ側オーナーが売却のメリットが無いとして契約内容を見直したいと相手側に伝えたことがあります。買収側は5年に分けて支払いをするという契約でしたが、タイ側オーナーからは「よく考えると5年間で利益が上がって会社の価値が上がると売却側がその分損をする」、「購入したいなら今すぐ現金で全額支払うべきだ」と言い始めました。
日本人としては理解できなかったが
すでに契約締結後だったので、私はこのタイ側オーナーに賛同できませんでした。正直なところ「契約後に新しい理屈で契約内容を変更なんて、あまりにもわがままだ」とまで思いました。しかし、この件で私はタイ側オーナーと何度も何度も打合せをしたことで、タイでの契約や約束事に関しての考え方が理解出来たような気がします。
じっくり話をしてわかったタイの文化
タイ側オーナーからの説明は、
そもそも今回のM&Aは全てを売って会社を手放すのではなく、株式の一部を売却してからその後一緒にビジネスを協業していくという案件で、協業が上手く行けばこの先10年、20年とパートナーとしてやっていく相手。
契約は一瞬だが、その後の10年、20年の協業期間でお互いに状況の変化は起こり得ること。
今回は契約時に自分が無知だったので買収側からの提案をほぼ鵜呑みにしたが、色々な人に話を聞いて勉強していくうちにこの契約の支払いの部分がおかしいと理解した。知識が変わって状況が変わったのだから、相手側もパートナーとして誠意を持ってこのことに対応するべきだ。
という理屈でした。
決して無理を押し通すつもりではない
色々と話しをしていくうちに理解できたのは、タイ側オーナーは決して「契約内容の支払い条件を変更」することを強要したいわけではなく、この契約全体とパートナーと今後上手くやっていくということにしっかりと納得して契約したいのだとわかりました。
そして、なぜ「契約内容の支払い条件を変更」という要求をしたのかというと、タイ側オーナーはこの時点ではこの方法がベストだと考えたからであって、他にお互いフェアだと納得できる方法があるのならそれを提案してもらってパートナーと話し合いたい、ということだと理解できました。
契約内容の変更が出来なければどうするか?
タイ側オーナーに、「もし、パートナーが契約内容の変更を受け付けなければどうする?」と聞いたところ、「契約を履行せずに全力で破棄できる方法を探す」と言っていました。「もし裁判になったらどんな手を使ってでも裁判に勝つようにする」とのことです。話し合いも出来ない相手はパートナーではなく自分を騙そうとする敵になるので徹底的に戦うということでした。
再交渉後に改めて契約締結
結局、買収側の企業も自分たちに若干有利な契約内容で進めようとした負い目もあったようで、改めて契約内容に関して交渉をすることになりました。そして買収側から新たな提案が出されてタイ側オーナーもそれに納得して受け入れ、契約は上手くまとまりました。これからまたどちらかに状況の変化が起こればパートナーとして誠意を持って話し合うという事も契約内容に盛り込まれました。
現地法人の社内でも起こっていること
上述したようなことは現地法人の社内でも頻繁に起こっているのではないでしょうか?
顧客とのサービス契約で、取引先がこちらのサービスに満足しない場合、支払いを止められるということが頻繁に起こると思います。これも顧客側が納得したいだけの行為であって、顧客が納得いくまで説明をすることや、追加のサービスを実行することで止められていた支払いを行ってくれます。
従業員との約束
従業員と何かの約束をしても、後日それをあっさりとひっくり返すような事を言われたりされた経験があるかと思います。もしかするとそれも従業員からすると約束を破っているつもりはなく、その約束に関してより詳しく知ってしっかりと納得したいだけなのかもしれません。そしてどう納得すれば良いかよくわからないので日本人から見ると約束を破るような行動をしてしまうのかもしれません。
不正につながることも
従業員に関しては、上述のようなことが起こってそれを頭ごなしに注意してしまうと、この上司はわかってくれないという理解になり、それが不正に繋がる場合もあります。わかってくれない上司や会社には対価を支払ってもらうという勝手な論理ですが、不正な方法でお金を取って自分の心の不満と折り合いを付けているというケースは多いです。
上述したタイ側オーナーと同じく、わかり合えない相手は敵ということで過剰な方法を取ることもあります。それが会社に損害を与えるような行為だったり、横領でお金を持っていったりということに繋がりかねませんので、タイの文化を理解して上手に付き合っていくことが求められます。
まとめ
長々と述べてきましたが、私が感じているタイでの「約束」という概念をまとめると、一度した約束は絶対的なものではなく、約束をしたとしてもお互いの状況の変化に応じて変化すべきものなので、約束した相手と常に話し合ってお互いにとって最適な形を見つけていくものではないかと思います。
日本人的な考えで「一度約束したのだから」と守らせるのではなく、常に相手の状況を探りながら話し合いの姿勢を持っておきましょう。
取引先との契約トラブルや、従業員のコントロールが上手くいかない場合、弊社でお手伝い出来るかもしれません。
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